Technology

すべては、エンジンからはじまった。

それはすぐれた品質と信頼性で、
世界中の人々に欠くことのできないPowerとなった。
日々の仕事のなかで、余暇を過ごすなかで、
それは、単なるエンジンを超えて、
人の心を、生活を、夢を動かす動力源となった。

除雪機

 国土の約半分が豪雪地域である日本では、除雪作業は人力により行なわれていた。1960年代になると冬季の輸送は馬が牽くソリに頼っていた豪雪地域にもモータリゼーションが波及、主要道路の除雪のため徐々に除雪機が普及し始めた。

 当時の除雪機は大型で騒音も大きく操作も複雑な業務用機で、一般家庭での除雪は相変わらず人力で行われた。しかし高度経済成長による若者の都市部への流失や、農業閑散期の都会への出稼ぎなどにより豪雪地域の人口はさらに減少。残された老人や女性、子供たちにとって、人力による除雪作業は重労働であった。

 一方、一家に一台自家用車が当たり前だったアメリカの豪雪地域では、すでに家庭用の小型除雪機が普及していた。1970年代半ばには日本でも輸入販売されたが、アメリカの軽い雪には対応できても、日本の湿った重い雪には太刀打ち出来なかった。

 当時のHondaは農機や発電機などを続々と開発販売し、「汎用事業の役割は、機械化により重労働を軽減すること」を実践。「除雪機があれば、重労働が軽減できる」と1978年、除雪機の研究開発に着手した。

 しかし、日本だけをみても、北海道は水分の少ないさらさらの雪、日本海側は湿った重い雪など、地域で雪質は異なる。また新雪や圧雪、屋根から落ちた雪やシャーベット状の雪など雪の状態は様々だった。Hondaは除雪機開発に際して、日本だけでなくカナダから南極近くまでさまざまな雪質の調査を行った。

簡単に扱えるHonda初の除雪機スノーラHS35は除雪の負担を軽減

 そして1980年にHonda初の小型除雪機「スノーラHS35 」の販売を開始した。除雪の機構自体は、「オーガ」と呼ばれる刃羽根で取り入れた雪を、「ブロワ」と呼ばれる羽根で投雪する方式。この方式自体は一般的なロータリー式だったが、これまで複雑な操作が必要な除雪機を、簡単に操作可能な設計とした。具体的には、エンジンの始動後に、手元のクラッチレバーを握ることで雪を掻いて飛ばし、1時間あたり30トンという画期的な除雪量を実現した。また、クラッチレバーを放せば「オーガ」と走行が停止することで安全面にも配慮した。さらに非使用シーズンの収納も、ハンドルを折りたたみ式としたことで、コンパクトに収納が可能となった。加えて45kgと軽量な「スノーラHS35」により寒い冬季の重労働からの解放を実現させた。

翌年販売のS35Aはクローラなどの採用でさらに作業を効率化

 Hondaが取り組んだ次の課題は、より広範囲に、より効率的な作業が可能な除雪機の開発であった。しかし除雪機は、大きな車体に大きなエンジン搭載すれば、大量の除雪が可能になるわけではなかった。Hondaは、効率よい除雪のためには、負荷(雪の量)による車速の調整と投雪場所に着目。そして簡便な車速の調整のために、独自の技術を投入し続けた。「オーガ」が大量の雪を取り込むことで負荷は増加する。これによりエンジンの回転数は低下し、エンジン停止や未除雪の雪に乗り上げることがある。このような場合は、車速を調整して除雪負荷を下げることでエンジン回転数を上昇させる必要がある。

前進3段、後進1段ギアを搭載したスノーラHS70

HST機構を搭載したスノーラHS870

 そして1984年、この問題を解決するために前進3段、後進1段のギアを装備した「スノーラHS70 」の販売を開始した。クラッチ操作により3段階に変速し、容易な車速調整を可能とした。また、1989年には油圧無段階変速機構HST(Hydrostatic Transmission)を搭載した「スノーラHS870S/660S」の販売を開始。HSTを搭載したことで、クラッチ操作は不要となり、レバー操作のみで前進から後進まで無段階に車速調整を可能とした。

世界初のハイブリッド除雪機スノーラi HS1390i

 そして2001年には、除雪機としては世界初のハイブリッド方式を採用した中型機「スノーラ i HS1390i 」の販売を開始した。ハイブリッドの内容は除雪部分をエンジンが担い、走行部分は左右2つの電動モーターで駆動する方式。同時に、作業中のエンジン負荷を検知することで、ECU(コンピュータ制御ユニット)によって制御された電動モーターが自動的に最適な車速に設定する。また、電動モーター化により、スムーズな走行や旋回を可能とした。

さらに進化したハイブリッド除雪機スノーラiHSM1590i

 さらに、2005年に発売した中型機「HSMI1590i 」では、世界初のECU制御を採用した次世代iGXエンジンを搭載。エンジン制御にもECUが用いられることにより、電動モーター(車体)側のECUと相互に通信を行い、タイムラグのないスムーズな車速調整を実現した。

 走行速度やエンジン回転数を自動制御するオートモードや、エンジン出力を最大で維持してパワフルな作業を実現するパワーモードに、従来の操作が可能な手動制御のマニュアルモードを加えた、3種類のモードをダイヤル一つで選択可能としたことで、初心者から熟練者まで、作業内容やスキルによる使い分けも可能とした。

 投雪においても、Hondaは様々な新機構を投入してきた。ロータリー式除雪機ではエンジン出力の約7割を「ブロワ」で使用している。投雪での課題は常に周囲の安全を確認しつつ一定の場所を狙って、投雪距離と方向を調節することであった。Hondaは、1984年に販売を開始した「スノーラHS70 」で「オーガ」と「ブロワ」機能を分離した2ステージ式を採用、投雪距離を12mへ伸ばした。1989年の「HS870S/660S」では、一本のレバーで素早く正確に投雪方向、角度を調整可能なフルリモコン電動シューターを採用し、新型の角形形状投雪口も相まって投雪距離をさらに伸ばした。そして2017年現在の最新モデル「HSL2511 」では、最大投雪距離は26mにも達している。

 また、ハイブリッドモデルにおいては車速調整を自動化したことで作業者は投雪作業に集中することが出来るようになり、相乗的に安全性や作業効率が向上した。さらに、エンジンのECU制御により、一定化したエンジン回転数の制御が実現し、投雪距離の保持を可能とした。それまで手動で実施していた投雪距離調整も不要とし簡単な作業を実現した。

 それ以外にも除雪機に対して、これまでHondaはさまざまな新機能、新機構を投入してきた。

耕うん機の技術を応用し、除雪能力を高めたHSS760nJX

 2013年に販売を開始した「HSS760nJX/HSS970nJX/HSS1170nJX 」では除雪機として世界で初めて「クロスオーガ」を採用した。「クロスオーガ」はHondaのフロントロータリー耕うん機「サラダ」で培われた内側と外側の「ロータリー(耕うん爪)」がそれぞれ逆回転するシステムを「オーガ」に応用したもの。屋根から落ちた雪や硬く絞まった雪を処理する際に、「オーガ」の除雪反力により車体が浮き上がり雪に乗り上げる事象が発生する。この際、前進と後進を繰り返すことで徐々に除雪をするのが一般的な「オーガ」である。これに対して「クロスオーガ」は正転と逆転によって除雪反力を打ち消し車体の浮き上がりを抑え、硬い雪でも乗り上げることなく、一気に除雪することを可能とした。

 Hondaはクラストップレベルの高い除雪能力を持つ大型除雪機も1995年の「スノーファイターHS2512Z 」からラインアップした。

世界初のオーガアシスト機能を搭載した大型除雪機HSL2511

 そして、2013年に販売を開始した最新モデル「HSL2511 」では、2005年から販売している中型機「HSM1590i」で採用されている走行レバーを後進にした時に自動で「オーガ」を上昇させ、前進時には上昇前の高さまで自動で戻すオーガリフト機能を採用。また、ボタンひとつで「オーガ」を設定した位置や絶対水平位置にセット可能なオーガリセット機能も採用。さらに車体が傾いても「オーガ」が上下左右に動いて自動的に補正することで、除雪面を平らに維持する、世界初のオーガアシスト機能という3種類の機能を併せ持ったスマートオーガシステムを搭載。ガソリンエンジン式除雪機では世界初のフューエルインジェクションシステムも採用し、低温時でのスムーズなエンジン始動と低燃費を実現した。

 さらに、少量の雪や、投雪が出来ない場所の除雪用として、雪を押して集める小型軽量でシンプルなブレード式除雪機「ユキオスSB800」や、家庭用コンセントでの充電や、高い静粛性で早朝夜間や住宅街での作業にも最適な電動式ブレード式除雪機「ユキオスe」もラインアップした。

 Hondaの除雪機は常にユーザーの声を反映し、技術によって難しい作業を簡単な作業へと変化させてきた。他のパワープロダクツと同様、静粛性、安全性、耐久性に優れ、高い環境性能も満たすHondaの赤い除雪機は、日本国内トップシェアを走り続けている。

家庭用のコンセントから充電できるの電動除雪機ユキオスe