船外機
第二次大戦が終わり世相や経済が安定した1960年代初頭の日本では、戦時中に大幅に減少していた小型漁船が、年間1万5千隻ほどのペースで急激に増加していた。
このような状況の中でHondaは1964年に小型船外機「GB30」の販売を開始した。

1964年当時、日本で販売されていた小型船外機のエンジンは、ほとんどが2ストロークだった。理由は2ストロークエンジンの簡単な構造と、軽量で安価に生産が可能だったことにある。しかし反面、2ストロークエンジンは騒音や振動という課題に加え、低速での運転は扱いが難しかった。さらに船外機は構造上スクリュー軸を通して水中に排出ガスを排出するため、水中への影響が大きかった。しかし、当時は環境問題や労働環境への関心は希薄で、安価な2ストロークエンジンが全盛であった。
「GB30」は、この2ストローク全盛時代に本格的な4ストローク汎用エンジン「G30」を搭載したHonda初の船外機だった。2ストロークに対抗するためプロペラへの動力伝達は一般的なシャフト駆動ではなく、チェーン駆動を採用して軽量化を図った。また搭載している「G30」エンジンをポンプなど他の作業でも使用可能とするために、脱着可能な構造を採用した。これら新たな発想に加えて白色タンクと赤色エンジンカバーの組合せも斬新なデザインだった。
低速での扱いやすさに優れており、低騒音・低振動で低燃費の「GB30」は“トロール漁”や“一本釣り漁”といった近海漁業から、湖水漁業、養殖棚やイケス回りの作業にも適していた。また4ストロークエンジンを搭載した「GB30」は水に優しく船外機開発時のコンセプトであった「水上を走るもの、水を汚さず」のポリシーを世の中に示した。
「GB30」は好評だったが、漁業関係者の間ではさらなる “パワー”を持った専用エンジン搭載の本格的な船外機への要求が高まっていた。そこでHondaは、鍛造一体型クランクシャフトやアルミコンロッドなどを採用した水冷水平対向2気筒の船外機専用エンジンを開発。1971年に小型船外機「B45/75」の販売を開始した。排気量を「GB30」の132ccから149cc(BF75)にアップし、馬力も4馬力から7.5馬力に高めるなど要望に応えたパワフルなエンジンを開発した。また、強く要望されていたバックギアも装備。バック時の急発進を防止するためにハーフスロットルを採用するなど安全面にも配慮した。この「B75」は漁業関係者に受け入れられるだけでなく、徐々に増加していたプレジャーボートに搭載されるなど、1990年代まで販売されるロングセラーとなった。
日本国内に対して、欧米ではマリーナなどのインフラが整備され、趣味としてプレジャーボートやフィッシングボートが既に広く定着していた。小型船外機のノウハウを蓄積したHondaは、欧米のプレジャーボートで主流だった35〜45馬力級の中型船外機の開発にも着手した。当時は中型船外機においても小型船外機と同様に2ストロークエンジンが全盛だった。また、船外機のデザインはストライプの入ったスクエアスタイルが主流だった。Hondaは4ストロークエンジンの船外機という主張が可能なデザインを模索した。
そして、1992年、アメリカの“シカゴボートショー”でHonda初の中型船外機「BF35/45」を発表した。そのデザインには、海を泳ぐイルカのフォルムをオマージュした、優しくなめらかな曲線主体のデザインを採用。ストライプの一切入っていないシルバーメタリックのボディは、「青空や雲、夕陽が映えて美しさと同時にクリーンなイメージも強調」と話題となった。このデザインは「インテグレートデザイン」と呼ばれ、Honda船外機のイメージとなったばかりでなく、他社のデザインを曲線主体へと変化させるきっかけになるほどのインパクトであった。また、高い環境性能も評価され、4ストローク船外機としては初めて、権威あるIMTECイノベーション・アワード(技術革新賞)を受賞した。
「BF35/45」は、欧州では「クリーンな船外機」として、米国では「低燃費の船外機」として高く評価された。このような中で1993年に欧州では、世界に先駆けて船外機に対する排出ガス規制「ボーデン湖規制」が実施された。当時世界一厳しいと言われた規制値だったが、Honda船外機の全ラインアップが規制値をクリアしたことで世界を驚かせた。
この「ボーデン湖規制」が契機となり、1990年代の半ばからは2ストロークに代わって4ストロークエンジンが船外機の主流となっていった。この状況の中でHondaは四輪のエンジン技術を応用した大型船外機を次々に開発。1995年に1.6リッター4気筒エンジンを搭載した「BF75/90」の販売を開始。1998年には2.2リットル4気筒エンジンで、世界で初めて電子制御燃料噴射方式を採用した「BF115/130」の販売を開始した。2001年には3.5リットルV6エンジンに、船外機として世界で初めて可変バルブタイミングリフト機構「VTEC」と、可変吸気を採用した「BF200/225」の販売を開始した。これらは、四輪車の開発も手がけるHondaだからこそ出来る中型、大型船外機であり、ハイパワー化、高性能化が進む欧米などを中心に、高い技術力が改めて注目された。
さらにHondaの大型船外機では、独自に開発の「BLAST」や「ECOmoモード」などの新機構も採用。「BLAST」は燃料供給量、点火時期などを制御して、低中速域の加速性能を向上。加速時間を短縮することにより、加速時の船首の浮き上がりによる視界不良時間の短縮にも貢献して安全性への配慮も実現した。「ECOmoモード」は、空燃比を細かくコントロールしてクルージング時の燃費を向上させ、排出ガスもよりクリーンとなった。
その他、船舶免許が不要で軽量コンパクトな空冷エンジンを搭載した2馬力のポータブル入門機「BF2」。海外の沿岸警備隊でも採用されている225馬力の大型船外機「BF225」など、幅広い用途に対応したラインアップを揃えたHondaの船外機。
高い信頼性と高性能化を達成すると同時に、終始一貫して「水上を走るもの、水を汚さず」をポリシーにチャレンジを続ける。